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和歌山地方裁判所 昭和26年(行)3号 判決

原告 堀巖 外一名

被告 串本町長

一、主  文

被告が昭和二十六年十一月二十七日和歌山県西牟婁郡串本町議会を解散した処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、被告が昭和二十六年十一月二十七日和歌山県西牟婁郡串本町議会を解散した処分は無効であることを確認するとの判決を求め、その請求原因として、串本町議会は昭和二十六年十一月二十六日二十二名の議員中二十名が出席して開催されたが、同議会において、現串本町長である被告提出にかかる議案第百十号「寄附金収受について」を上程審議した。右議案の内容は串本町を通過する国道第四十一号線の防波堤工事費中、地元負担金として同町が和歌山県に納入した金四十二万円に関し、訴外川端四郎は串本町議会議長に対し、右串本町の支出した負担金は、同町の資産家や右工事の請負人或は右工事によつて直接利益を受けた運送業者等から寄附してもらつてこれを補填して町民の負担を軽減すべきであり、若しこれ等の人の寄附金が金四十二万円に達しない場合には、同訴外人が自らその不足額を寄附する旨を誓約してその誓約書を提出したところ、同訴外人が右の誓約を履行しないのでその履行を求める訴訟を提起することを承認する議決を求めるというにあつた。しかしながら、右のような議長宛の誓約が果して法的に効力があるかどうか、ひいては訴求したとしても、その勝敗が疑問であり、費用もいり、又時間もかかるから、右串本町議会の議員がその歳費を辞退して右負担金を補填したらよいという論などもでて、結局採決したところ、右議案はこれを否とするもの十五名可とするもの四名の多数で否決された。ところが、被告は右串本町議会に対し、翌二十七日に文書をもつて地方自治法第百七十八条によつて右串本町議会を解散する旨を通告した。しかし串本町議会の右議決はなんら被告に対する不信任を表明したものでなく、ただ単に、被告の提案した議案第百十号が通過しなかつたというだけである。故に被告が右否決をもつて直ちに不信任の議決であるとして串本町議会を解散したのは明らかに違法であるから、右串本町議会の議員である原告両名は右解散処分の無効確認の宣言を求めるため本訴に及んだと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告等の請求を棄却するとの判決を求め、その理由として、原告主張の事実中、昭和二十六年十一月二十六日開催された串本町議会に原告主張の通りの議員が出席し、同議会において被告が提案した原告主張通りの内容の第百十号議案が上程され、審議の上原告主張通りの多数で否決されたこと、被告は右議案の否決は串本町議会が被告に対し不信任の議決をしたものとして翌二十七日右串本町議会を解散する通告をしたこと、並びに、原告両名が右解散当時串本町議会の議員であつたことはいずれも認める。しかし、町長による町議会の解散処分は直接議員の失職の効果を生ずる処分であるから、被告が行つた昭和二十六年十一月二十七日の串本町議会の解散処分後は同町議会議員は一切存在しない筈である。しかるに、右串本町議会議員と名乗る者が原告となつている本訴は不適法である。

そもそも、国道第四十一号線の防波堤工事費中串本町の負担すべき地元負担金四十二万円は、昭和二十四年八月十五日串本定例町議会において追加更正予算として支出することに可決され、同町は該負担金を支出納付したが、同町の資産家、右工事の関係者、及び該工事による受益者等から寄附を仰いで該寄附金で串本町の右地元負担金の支出を補填しようとし、関係者の努力により右寄附の話がまとまりかけたとき、共産党の壁新聞に右寄附は右工事の請負業者等がその工事の不正を隠蔽するためである旨の記事が掲載せられたため、遂に右寄附の話はつぶれてしまつた。これらのことが問題となつて、訴外川端四郎が代表者となり同町民の一部から右町議会のリコール請求がなされ、昭和二十六年一月十日その決戦投票が行われるまでになつたが、右投票日の数日前、同訴外人が、串本町議会の現議員が総辞職し、新議員によつて寄附金を集めるならば、その不足額は同訴外人において負担すると公言したので、同月八日緊急町議会が招集され、同訴外人も出席して右言明の趣旨を誓約書に作成提出したので、同町議会議員は総辞職をした。同年二月十日新議会が成立し、被告は同年三月六日同議会の定例会議に右負担金四十二万円の寄附金問題につき新議会の意見及び方針を諮問したところ、同年五月十九日右町議会から前記誓約書の趣旨に従うべきで議会はこれに協力する旨の答申を得たので、爾来被告その他の関係者等は寄附金募集に最善の努力をしたが、結局一銭の寄附も集まらなかつた。更に被告は右答申に基き昭和二十六年六月二十三日臨時町議会に国道第四十一号線寄附金問題処理案を提出したが、右町議会は議決せずして該議案を被告に返付した。

以上のような経過を経た末、被告は同年十一月二十六日右町議会第六回定例議会の開催に当り前記第百十号議案「寄附金収受について」を提出して、右訴外人に対し訴を提起することの承認方を求め、且つ、被告は右議会に出席して、本議案は内容的には昭和二十六年六月二十三日提出の国道第四十一号線寄附金問題処理案と同一であり、被告としては、右工事費の地元負担金支出の負担を一般町民に負荷せしめないため昭和二十五年五月十九日の答申に基き、川端誓約の趣旨を平和的に実現しようと最善の努力をしたが、遂に万策尽き全責任を帯びて該議案を提出したものであるから、若し否決された場合は、被告に対する不信任の表示であると認めると告げた。町議会はこれに対してこれを否定する何等の発言もなくて採決に入り、右議案を否決したので、被告は議長の否決宣言に次ぎ、不信任されたから退場する旨を告げて議場を去つた。このように、右工事費地元負担金に関する寄附金の問題は串本町にとつて未曾有の重要政治問題であり、且つ被告が自己の政治的運命をかけて提案した右第百十号議案が町議会において否決されたのは、形式的にもまた実質的にも被告に対する不信任の意思を表示したものであるから、被告がなした右串本町議会の解散処分は適法であると述べた。(立証省略)

三、理  由

昭和二十六年十一月二十六日原告主張の議員の出席した串本町議会において原告主張の議案が原告主張通りの多数で否決されたところ、翌二十七日被告が地方自治法第百七十八条により右議会の解散通告をなしたこと、並びに原告両名が右町議会解散当時串本町議会の議員であつたことは当事者間に争がない。

被告は原告主張の解散処分後は串本町議会議員は存在せざるものであるのに、同町議会議員と名乗る者が原告となつて提起した本訴は不適法であると主張するが、議会の解散処分はその適法な場合にはその議会の議員の資格を剥奪する効果を生ずるものであつて、議員たる個人に対し極めて重大な利害を及ぼすものであることは言をまたないから、右解散処分当時議員たる資格を有していた者は、該処分の違法を理由としてその取消、変更、又は無効確認を求める法律上の利益を有すること明らかである。本件において原告等はその訴状の原告の表示に串本町議会議長又は串本町議会議員たる肩書を記載しているが、これは、該訴状の全般の趣旨に照し、原告等が夫々本件解散処分当時串本町議会議長又は串本町議会議員であつたことを理由として原告等個人として本訴を提起するものであることが諒知されるから、原告等の本訴を不適法とする理由なく、被告の右主張はその理由がない。

次に、地方自治法によれば、町長その他の地方公共団体の長が、その議会を解散し得るのは、同法第百七十八条の議会が不信任の議決をした場合と、同法第百七十七条第四項によつて不信任の議決とみなし得る場合との二つに限定されている。然しながら同法が、議会に対してその地方公共団体の長の不信任の決議をなすことを認め、一面地方公共団体の長に対して右議会解散の権限を認めたのは、右両者とも住民の選挙によつて選任構成せられたもので、いづれもその地の住民の民意を背負つているものであるのに、この両者の間に意見の対立や抗争が発生し、相互の折衝により到底妥結する途がなくなつたときには、議会議員又は地方公共団体の長のいずれかの地位の喪失を来す不信任決議及び議会解散の方途に出でしめ、究極において右両者のいづれの見解を、その地の住民が支持賛同するかを、これ等両者のいづれかの選挙によつて表明せしめ、以て民意にそつた解決の途に出でしめんとした趣旨であると解せられる。

右の見地からすると、同法第百七十八条の不信任の議決とは、必ずしも不信任案の可決のみならず、信任案の否決、その長に対する辞職勧告の議決は勿論、客観的に不信任の意思を表明すると認められる議決、例えば、地方公共団体の長が、その住民に公約し、自己にとつて政治的生命とも言い得る根本的施政方針に基く事項を議案として提出したとき、議会の法定多数が別段正当な事由がないのに、専らその長を苦境に陥れて退職させる意図のもとに該議案を否決する議決をも含むと解すべきである。

本件において串本町議会の前示議決が地方自治法第百七十七条第二項第二号の場合、不信任案の議決、信任案の否決又は辞職勧告の議決の何れにも当らないことはその議案の内容に照し明らかであるから、右の客観的に不信任の意思を表明すると認められる議決に該当するかどうかについて案ずるに、真正に成立したことについて当事者間に争いのない乙第一、二号証及び甲第一号証並びに証人小川竜一、上野重吉の各証言によれば、昭和二十四年八月二十五日頃串本町議会は当時の浜口同町長の提出にかかる、国道四十一号線の防波堤工事費中串本町の地元負担金四十二万円の支出を内容とする追加予算案を可決したが、当時同町長は右四十二万円の支出についてはこれを右工事の請負人たる訴外前地四郎一より寄附せしめ、町民に負担をかけぬ方針であり、当時の議員も同町長の右意向を覚知して右追加予算の可決をしたものであるところ、昭和二十五年十二月項右町長に代り現町長嶋本喜一が就任して間もなく、右前地四郎一の寄附の目的は同人の工事の不正をかくすためである旨の新聞記事が掲載された等のことから、同人は右寄附をしないことを表明するに至り、一面右嶋本町長は前記追加予算の執行として右金四十二万円の地元負担金を支出納入したのであるが、同町長も串本町の右支出金は町民に負担をかけない根本方針をとり、寄附の勧説等に奔走したがその効がなかつた。その間昭和二十六年一月頃訴外川端四郎が代表者となつて、串本町議会のリコールの請求がなされ該リコールの投票獲得運動の立会演説会において、同人は、現議員が退職すれば右寄附は醵出される、若し寄附金が集まらぬ時は自ら責任をもつてこれを寄附する旨公言し、同年一月八日、同人より、現議員は即時退陣し、円満な人格者有識有能なる人、清廉潔白な人を新議会に送り、これら新議員によつて寄附の交渉を開始することにし、寄附金不足のときは自ら私財をなげうつても、金四十二万円を作り町民一般大衆に迷惑をかけないことを誓う旨の串本町議会議長宛の誓約書を、同議会に差入れたので、当時の議員は総辞職し、新議会が成立した。それ以来被告初め、同町議会議員は、右誓約書に従い寄附の勧説に努めたが、全く寄附する者なく、被告は更に右川端四郎に対し右誓約書の履行を求めたがこれもその効がなかつた。そこで被告は、昭和二十六年二月頃、右新議会に対し、右地元負担金四十二万円の寄附金問題の処理についてその方針や意見を諮問したところ、同議会は同年五月十九日、右問題については町長において町民に負担せしめない方針を以つて処理せらるべく、議会もこれに対し及ぶ限り協力する旨答申した。そこで被告はその後も右の寄附収受についてあらゆる努力を重ねたが全くその効がなかつたので、遂に右誓約書に基づき串本町より前記川端四郎を相手取り右四十二万円請求の訴訟を提起するの外なしと断じ、昭和二十六年十一月二十六日開会の串本町議会に、右訴訟提起の承認を求むる前示第百十号議案を提出したところ、同議会においては、更に法律的に右誓約書を検討した上訴訟を提起すべしとの説、議員が歳費を辞退して右四十二万円の補填をすべしとの説、他におだやかな方策を考究すべしとの説等が乱れ飛び、少数の賛成者もあつたが、遂に前記の通り否決されたものであることが認められる。即ち右地元負担金四十二万円支出の補填の問題は昭和二十四年八月頃以来の串本町の一大政治問題で早期解決を迫られており、被告町長もこの問題解決のために全精力を傾注していたものであるが、議会もまた右四十二万円の補填については寄附その他の方法で町民に負担をかけない方針であり、この点は被告と同一の方針をとるものであつて、唯被告は訴訟によつてこれを訴外川端四郎から徴収すべきであるとし、議会は訴訟提起は現在において不適当であるというのであつて両者の意見の対立はその方法の点にあるに過ぎないものであるから、議会が右議案を否決したことは被告不信任の意思を表明したものと認めることは困難である。

また右各証拠によれば、被告は右議案の説明に当り、該議案は自己の全責任をかけて提出したもので、その否決は不信任を意味するものであると述べ、また該議案が否決された後不信任とみなされたので退場する旨述べていることを認めることができるが、この被告の一方的言辞によつて右議案を被告の信任案たらしめるに足るものと認めることはできない。

従つて右議決は如何なる点からもこれを不信任の議決と謂うことができない。

しからば被告は不信任の議決がないのに解散処分を行つたもので該解散処分が違法であることは当然である。

而して解散処分が地方公共団体の長に非ざる者によつてなされた場合や、解散処分をなした地方公共団体の長が意思能力を喪失していた場合等の如く、その処分の瑕疵が一見明瞭で且重大なときはかかる処分は当然無効と謂うことができるが、議会の特定の議決を不信任の決議であると解して、解散処分をした本件の如き場合は、その処分を当然無効なりとすべきにあらずして、単に取消し得るに過ぎないものと認むべきである。

原告等は本訴においては、右解散処分の無効確認を求めているのであるが、処分が当然無効でない場合には、その処分の取消を求める請求をも含包しているものと認むべきであり、且つ本訴は行政事件訴訟特例法所定の出訴期間内に提起されたものであることが本件記録に徴し明白であるから被告のなした前記解散処分はこれを取消すべきものとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 万歳規矩楼 吉井正一 小畑実)

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